1.国の自転車活用推進計画
自転車政策に関しては、2017年5月に施行された「自転車活用推進法」に基づいて、国では2018年6月に「自転車活用推進計画」を策定しており、その中で自転車の活用に関する総合的かつ計画的な推進を図るために4つの目標と18の実施すべき施策が示されています。
表 自転車活用推進計画における目標、実施すべき施策等
目標 | 実施すべき施策 | 指標 |
1.自転車交通の役割拡大による良好な都市環境の形成 | 1.自転車通行空間の計画的な整備の促進 | 自転車活用推進計画を策定した地方公共団体数 [実績値 0団体→目標値 200団体]
都市部における歩行者と分離された自転車ネットワーク概成市町村数 [実績値 1市町村→目標値 10市町村] |
2.路外駐車場の整備や違法駐車取締りの推進等による自転車通行空間の確保 | ||
3 .シェアサイクルの普及促進 | サイクルポートの設置数 [実績値 852箇所→目標値 1,700箇所] | |
4.地域の駐輪ニーズに応じた駐輪場の整備推進 | ||
5.自転車のIoT化の促進 | ||
6.生活道路での通過交通の抑制や無電柱化と合わせた自転車通行空間の整備 | ||
2.サイクルスポーツの振興等による活力ある健康長寿社会の実現 | 7.国際規格に合致した自転車競技施設の整備促進 | |
8.公道や公園等の活用による安全に自転車に乗れる環境の創出 | ||
9.自転車を利用した健康づくりに関する広報啓発の推進 | ||
10.自転車通勤の促進 | 通勤目的の自転車分担率 [実績値 15.2%→目標値 16.4%] | |
3.サイクルツーリズムの推進による観光立国の実現 | 11.国際会議や国際的なサイクリング大会等の誘致 | |
12.走行環境整備や受入環境整備等による世界に誇るサイクリング環境の創出 | 先進的なサイクリング環境の整備を目指すモデルルートの数 [実績値 0ルート→目標値 40ルート] | |
4.自転車事故のない安全で安心な社会の実現 | 13.高い安全性を備えた自転車の普及促進 | 自転車の安全基準に係るマークの普及率 [実績値 29.2%(2016年度)→目標値 40%(2020年度)]
自転車乗用中の交通事故死者数[実績値 480人→目標値 第10次交通安全基本計画の計画期間に、自転車乗用中の死者数について、道路交通事故死者数全体の減少割合以上の割合で減少させることを目指す。](13~17の関連指標) |
14.自転車の点検整備を促進するための広報啓発等の促進 | 自転車技士の資格取得者数[実績値80,185人→目標値 84,500人](13,14の関連指標) | |
15.交通安全意識の向上に資する広報啓発活動や指導・取締りの重点的な実施 | ||
16.学校における交通安全教室の開催等の推進 | 交通安全について指導している学校の割合 [実績値99.6%→目標値 100%] | |
17.自転車通行空間の計画的な整備の促進(再掲) | ||
18.災害時における自転車の活用の推進 |
2.地方公共団体(都道府県)の自転車活用推進計画の策定状況と特徴
「自転車活用推進計画」では地方公共団体に対して、都道府県自転車活用推進計画及び市町村自転車活用推進計画の策定を促すとしており、それを受けて地方版自転車活用推進計画の策定が進められています。
都道府県での策定状況は、2019年3月に14、2020年3月までに23、2020年7月現在43都道府県で計画が策定されています(ホームページ公表は40都道府県)。
都道府県の自転車活用推進計画からは、以下のような特徴がみられます。
1)計画期間
国の計画に準じて2020年度までとしている都道府県もありますが、2019年4月以降に策定された計画では2020年度までの計画はありません。計画期間で他の計画との整合を図るものも多くなっています。2年~5年の計画がほとんどですが、群馬県や宮崎県では10年間の長期計画となっています。
2)計画目標
国と同様の4つの目標(良好な都市環境、健康長寿社会、観光立国、安全で安心な社会)を設定している都道府県が多数です。4つの目標のうち、2項目を合わせて3つの目標としている都道府県もみられます。各地方公共団体で目標の表現方法は様々ですし、重点の置き方等により目標の順番は異なっています。
また、群馬県では交通安全、静岡県では自転車競技、北海道や和歌山県ではサイクルツーリズムに重点を置いた記載になっています。
3)実施すべき施策
国の18施策を踏襲して、その一部を選定している地方公共団体が多数ですが、以下のような独自の施策もみられます。
- 静岡県「⾃転⾞アスリートの育成 ・競技⼒向上」、「国内最⾼峰の e-BIKE環境の創出」、「⾃転⾞⽂化の創造・定着」
- 愛媛県:「E-BIKEえひめの推進」、「タンデム自転車等の普及」、「ブランド力の向上と魅力発信」、「サイクリングアイランド四国実現をはじめとする広域連携の推進」など
- 三重県:「MaaS を活用した自転車活用の推進」
- 徳島県:「ビッグデータの交通安全対策への活用」
- 長野県:「サイクルツーリズムの推進によるサービス産業の多様化・高付加価値化」
国の18施策との対応をみると、「1.自転車通行空間の計画的な整備の促進」は、すべての地方公共団体の計画に含まれています。また、「9.自転車を利用した健康づくりに関する広報啓発の推進」、「12.走行環境整備や受入環境整備等による世界に誇るサイクリング環境の創出」、「15.交通安全意識の向上に資する広報啓発活動や指導・取締りの重点的な実施」、「16.学校における交通安全教室の開催等の推進」に関連した施策が多くの計画であげられています。一方で、「5.自転車のIoT化の促進」、「7.国際規格に合致した自転車競技施設の整備促進」は、国の18施策を網羅している山口県などに限定されます。
国の18施策以外では、「自転車損害賠償保険への加入促進」をあげている地方公共団体が最近の計画では特に多くなっています。
4)指標
国の計画にある指標のうち、「自転車活用推進計画を策定した地方公共団体数」、「モデルルート数」、「自転車乗用中の交通事故死者数」、「交通安全について指導している学校の割合」などが多くの地方公共団体で指標として設定されています。国の計画以外では、「自転車通行空間の整備延長」、「健康寿命」、「スポーツ実施率」「観光入込客数」、「自転車事故件数」などが地方公共団体で指標として設定されています。
他には、以下のような独自指標がみられます。
- 北海道:「温室ガス排出量」
- 富山県:「健康づくりのため自転車を利用する県民の割合」
- 静岡県:「国際⾃転⾞競技連合(UCI)公認レースの静岡県開催競技種⽬数」
- 京都府:「自転車同乗幼児(6歳未満)のヘルメット着用率」
5)都道府県における自転車活用推進計画の特徴
都道府県別の自転車活用推進計画の計画期間、目標および特徴を以下に示します。ここで記載した計画は2018年度に計画策定している都道県に、2019年度に計画策定された一部の県を加えたものです。
表 都道府県における自転車活用推進計画の特徴
都道府県 | 計画期間 | 目標 | 施策・指標等の特徴 |
北海道 | 2020年度までの2ヶ年 | 3つの視点で施策を展開 「自転車を知る・使う」 「自転車を安全・安心に利用する」 「自転車を楽しく・快適に利用する」 |
「自転車の魅力を生かした多様なサイクルスタイルの実現」、「自転車を安全で安心に利用できる環境の構築」、「サイクルツーリズムの推進」の展開方向として9施策(重複除くと7施策)を設定 |
茨城県 | 2021年度までの3ヶ年 | 国の自転車活用推進計画に近い4つの目標を設定 「サイクルツーリズムの推進による地域の活性化」 「自転車交通の役割拡大に向けた自転車空間の整備」 「自転車事故のない安全で安心な社会の実現」 「自転車を活用した県民の健康増進」 |
13の実施すべき施策を設定 広域のネットワークとして「いばらき自転車ネットワーク計画」の整備方針を記載 |
群馬県 | 2028年度までの10ヶ年 | 4つの目標を設定 「安全で快適な自転車通行環境の実現」 「自転車の安全利用意識の醸成」 「公共交通との連携強化による自転車利用の促進」 「観光来訪の促進・地域活性化」 |
中高生の自転車事故が全国ワースト1位である現状を踏まえて安全確保の視点の2目標を前面 |
東京都 | 2020年度までの2ヶ年 | 国の自転車活用推進計画の目標に対応し都の実情に応じた目指すべき将来像を設定 「環境形成」 「健康増進」 「観光振興」 「安全・安心」 |
18の実施すべき施策を設定
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富山県 | 新総合計画の目標年次2026年度までの8ヶ年 | 国の自転車活用推進計画に対応する4つの目標を設定 「自転車にやさしい都市環境の形成」 「自転車を活かした健康づくりの推進」 「サイクルツーリズムの推進」 「安全で安心な自転車社会の実現」 |
13の実施すべき施策と7つの指標を設定 「自転車を活かした健康づくりの推進」における指標では「健康づくりのため自転車を利用する県民の割合」30%という目標値を設定 |
長野県 | 2022年度までの4ヶ年 | 4つの目標を設定 「すべての人が⾃転⾞を安全に利⽤する信州」の実現 「⾃転⾞を利⽤するライフスタイルにあったまちづくり」 「人も自然も健康な信州」の実現 「Japan Alps Cycling」ブランドの構築 |
13の実施すべき施策と4つの指標を設定 「道の駅(県管理)のサイクルステーション化率」100%の目標値を設定 |
静岡県 | 2021年度までの3ヶ年 | サイクリストの憧れを呼ぶ聖地“ふじのくに”の実現を目指す姿として4つの目標を設定 「自転車競技のアジア中⼼地への 成⻑と⾃転⾞アスリート育成体制の構築」 「国際的なサイクルツーリズムの⽬的地創造」 「安全・快適に誰もが⾃転⾞に親しむ地域社会の形成」 「良好な⾃転⾞⾛⾏空間の形成」 |
10の実施すべき施策と9つの指標を設定 「自転車競技のアジア中⼼地への 成⻑と⾃転⾞アスリート育成体制の構築」の指標では、「国際⾃転⾞競技連合(UCI)公認レースの静岡県開催競技種⽬数」 や「静岡県内の⾃転⾞競技連盟(JCF)登録競技者数」を指標として設定 |
奈良県 | 2024年度までの5ヶ年 (2020年3月策定) |
3つの目標を設定(国の計画目標の「良好な都市環境」と「健康長寿社会」が合わせて1項目) 「観光振興~巡る~:自転車による観光地への周遊を促すサイクルツーリズムの推進」 「まちづくり~賑わう~:まちづくり連携協定に基づく自転車施策の推進」 「安全・安心~守る~:安全で安心な自転車利用文化の醸成」 |
9の実施すべき施策を設定 実施すべき措置に「サイクリストに優しい宿」「自転車の休憩所」「(仮称)サイクリストにやさしい駐車場」の認定など(評価指標にも設定) |
和歌山県 | 2020年度までの2ヶ年 | 2つの目標を設定 「安全で安心な自転車通行空間の確保」 「『サイクリング王国わかやま(WAKAYAMA8∞)』 の推進による観光立県の実現」 |
8の実施すべき施策を設定 サイクルツーリズムに重点 |
岡山県 | 2020年度までの2ヶ年 | 国と自転車活用推進計画と同じ目標を設定 「自転車交通の役割拡大による良好な都市環境の形成」 「サイクルスポーツの振興等による活力のある健康長寿社会の実現」 「サイクルツーリズムの推進による観光立県の実現」 「自転車事故のない安全で安心な社会の実現」 |
16の実施すべき施策(重複除くと14施策)を設定 |
広島県 | 2020年度までの2ヶ年 | 国の自転車活用推進計画に対応する4つの政策目標を設定 「自転車を安全に利用できる人・環境にやさしいまちづくり」 「サイクルスポーツを通じた健康で活力ある社会づくり」 「サイクルツーリズムの推進による観光立県の実現」 「自転車事故のない安心な暮らしづくり」 |
13の実施すべき施策(重複除くと12施策)を設定
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徳島県 | 2022年度までの4ヶ年 (2019年12月策定) |
5つの目標を設定 「徳島ならではの資源を活用した新たな価値や魅力の創造」 「自転車交通の役割拡大による良好な都市環境の形成」 「サイクルツーリズムの推進による魅力ある観光地域づくり」 「サイクルスポーツを通じた健康で活力ある社会づくり」 「自転車事故のない安全で安心な社会の実現」 |
副題を「とくしまSDGsサイクル推進計画」とし、方向性にもSDGs達成への貢献や、環境・人・社会・地域などに配慮したエシカルな暮らしの実現を記載 「ビッグデータの交通安全対策への活用」など独自施策を含む22施策を設定 |
香川県 | 2020年度までの2ヶ年 | 国の自転車活用推進計画に対応する4つの政策目標を設定 「自転車交通の役割拡大による良好な都市環境の形成」 「健康長寿社会の実現」 「サイクルツーリズムの推進による観光立国の実現」 「自転車事故のない安全で安心な社会の実現」 |
13の実施すべき施策を設定 |
愛媛県 | 2022年度までの4ヶ年 | 5つの目標を設定 「県民みんながつくり・育てるサイクリングパラダイス」 「交流人口の拡大による地域活性化」 「歩行者・自転車にやさしいまちづくり」 「シェア・ザ・ロードの精神に基づく自転車の安全利用」 「サイクルスポーツの振興」 |
15の実施すべき施策を設定 「E-BIKEえひめの推進」、「タンデム自転車等の普及」、「ブランド力の向上と魅力発信」、「サイクリングアイランド四国実現をはじめとする広域連携の推進」など、独自の施策を設定 |
福岡県 | 2021年度までの3ヶ年 | 国の自転車活用推進計画に対応する4つの目標を設定 「自転車を快適に利用できるまちづくり」 「自転車を活用したスポーツ活動と健康づくりの推進」 「自転車を活用した観光振興と地域の活性化」 「自転車・歩行者・自動車が安全に通行する社会づくりの推進」 |
11の実施すべき施策と5つの指標を設定 「県や市町村等が行う自転車の魅力を体験する機会の提供回数(イベント開催数)」を指標に設定 |
長崎県 | 2020年度までの2ヶ年 | 3つの目標を設定 「自転車を快適に利用できる良好な都市環境の形成」 「サイクルツーリズムによる観光振興と地域活性化」 「自転車事故のない安全で安心な社会の実現」 |
8の実施すべき施策(重複除くと7施策)を設定 「健康増進」等は、その他の取組に位置づけ |
3.地方公共団体(市町)の自転車活用推進計画の策定状況と特徴
都道府県と同様、一部の市町では2019年3月に地方版自転車活用推進計画を策定しています。その後、計画策定した市も多数あります。
市町村の計画では、計画期間として2020年度までの短期設定はほとんどなく、10年程度の中長期設定としているところが多いようです。
計画区域の設定では、市町村境を跨ぐエリアの設定が可能となっており、「諏訪湖周自転車活用推進計画」は、岡谷市・諏訪市・下諏訪町の諏訪湖周辺の 2 市 1 町によって計画策定されています。
また、2019年3月以前の計画を地方版自転車活用推進計画とする市もあります。宇都宮市では、「宇都宮市自転車のまち推進計画」が国の自転車活用推進計画と整合していることから、その後期計画を改訂して自転車活用推進計画としています。また、千葉市では、2018年3月に策定した「千葉市自転車を活用したまちづくり推進計画」を2019年2月に地方版自転車活用推進計画に位置付けています。同様に、京都市では、2015年3月に策定した「京都・新自転車計画」を2018年10月の京都市自転車政策審議会で地方版自転車活用推進計画に位置付けています。他に、豊橋市や堺市でも既定計画の改訂や追補により地方版自転車活用推進計画としています。
実施すべき施策としては、寒河江市(山形県)や守口市(大阪府)では、自転車に関連する総合的な計画ではなく、自転車ネットワーク計画を主としているものもあります。